心の豊かさ


心の豊かさ
2013年3月10日(日) 晴れ
更新:2023年11月11日(土)
 
先週の月曜日の夜、いつものように会社主催のセミナーがあり、「心の豊かさ」についての講演があった。
なかなか印象に残る講演内容であったので、記憶の範囲で紹介したいと思う。
 
今回の会場は、いつもの武蔵中原駅前にある大ホールが取れなかったのか、グループ会社内のホールで開催された。いつものホールより収容人数が少ないため、満席の状態であった。
講師は、福岡県篠栗町から来られた林覚乗(はやしかくじょう)氏、篠栗町にある高野山真言宗別格本山「南蔵院」のご住職である。
 
地元博多弁が随所に出て来る講演は、同郷の私としては、親しみを感じるものであった。
南蔵院のことは、地元ながら私は全く知らなかったのだが、ブロンズ像としては世界一の大きさである釈迦涅槃像があることで有名らしく、毎年100万人を越える参拝者があるんだとか。
 
講演のテーマである「心の豊かさ」とは、一言でいえば、物質的な豊かさからは決して得られるものではなく、心の持ち方で得られるものであると言うことであった。
講演の内容は、この心の持ち方について、世の中の色んな実例を挙げながらのお話であったが、講演の記録は私の頭の中にしかないので、記憶を辿りながら書いてみる。
 
■サービスの心
 
「世の中には各種のサービス業が営まれているが、いいサービスは、マニュアルやノウハウだけでは絶対に出来ない、サービスする人の人間性が豊かでないと、いいサービスは出来ない」と言う話から講演は始まった。
 
ある日、外出している時に子供から携帯に電話があり、「帰りに、チーズバーガーと月見バーガーを買って来てくれ」と言う電話だったとか。
そこで、帰りに店に寄って注文したところ、「10:30からしか注文を受けられない」と言われたそうである。
時計を見ると10:27。僅か3分くらい、こうやって話しているうちに経つのだから、注文を受けてくれても良かろうにと思ったが、「駄目です」の一点張りだったらしい。
「どこのハンバーガー屋とは言わないけど、『月見バーガー』と言えば分かるでしょう」と、笑いながら話す林氏。
 
それから、この店に関しては別のエピソードもあって、
ある時、近くで商売をされている人が、社員の休憩時間に差し入れをしてやろうと思い、ハンバーガーを買いに来て、37個注文したらしい。
そうしたら、店員がこう聞いたとか。「食べて行かれますか? お持ち帰りですか?
37個ものハンバーガーを、食べて帰る訳がないと、考えれば分かるでしょ、と言うことである。
 
もう一つの例は、出雲旅行の話。
高校生と小学生の二人の娘が、春休みに、二人で出雲に旅行したいと行って来たとのこと。
考えた末に行かせてやることにし、福岡空港から出雲空港に行く便の予約をしようと、航空会社に電話した時の話である。
高校生と小学生の二人の娘の名前と年齢を伝えて、予約を申し込んだところ、相手から、こう聞かれたそうである。
お煙草はお吸いになりますか?
 さすがに林さんも、これは冗談を言ってるに違いないと思い、「うちでは、酒は小さい頃から飲ませて鍛えておりますが、煙草の方はまだ吸わせてないんですよ」と答えたところ、
相手から、「こんな時に、冗談は止めて下さい」と怒られたとか。どこの航空会社とは言われなかったが。
 
■人について
 
林さんのお父さん(先代の住職)は、毎日ビール20本は呑む酒豪であったらしいが、ある時、「何故そんなに呑むのか」と聞いたところ、
「皆さんからお布施を戴いているので、これを有り難く全部戴くのが私の勤め、供養だ」
と言われたそうである。
 
それはさておき、この父親が大動脈破裂で倒れたそうであり、病院で、父親の友人の医者に聞いたところ、「長くは持たない」と言われたそうである。
その時、父親は意識不明の状態であったのだが、後で聞いたところ、「長くは持たないと言う話は聞こえていた」とのこと。
父親は、それから更に10年近く長生きされたらしいのだが、友人の医者の方が、半年後に亡くなられたとか。
 
その父親が、退院のあとに、先が長くないと覚悟してか、「住職」を息子(覚乗さん)に引き継ぐと言う話を切り出してきたそうである。
そこで、林さんから父親に、「寺の経営理念みたいなものがあれば、伝えておいて欲しい」と尋ねたところ、2点話をされたとか。
 1点目は、「亡くなられた方の戒名を決める時には、その方が どんな方であれ、文字数は必ず13文字にすること。」
 2点目は、「お布施は、貰っても絶対に中身を見ないこと。」
だったそうである。
理由を聞いたところ、
 「お布施の中身を見てしまうと、人間、どうしてもお布施の額に惑わされてしまって、お経の長さが変わってしまうから」
だそうである。
戒名を13文字で統一するのも同じく、「人に差を付けてはならない」と言う教えである。
以来、林さんは、お布施を貰っても、自分では中身を見ない様にしたとのこと。
ところが、しばらくして父親が林さんに言うには、
 「中身を見なくても、厚さで分かる。」
とのこと。勿論、冗談の話である。
 
■心の豊かさ (1)
 
広島に講演に行った時に、控え室で会った女性から聞いた話をされた。
 
その女性は、子供の頃は家がとても貧乏で、家には家具らしい家具もなかったそうなのだが、学校の友達は、彼女の家に良く遊びに来たんだとか。
そこである時、
 「何もない家なのに、何故、うちがそんなにいいのか」
と理由を聞いたところ、
 「何かは分からないけど、彼女の家に行くと、とても楽しい気分にさせられる」
と言われたらしい。
 
彼女の家が貧乏なのは、実は理由があり、
父親が、知人から保証人を頼まれると、断れなくて保証人になってしまうらしく、結局、他人の借金を背負ってしまうために、家具も差し押さえられることになって、その結果、貧乏な生活がずっと続いていたのだそうである。
 
彼女は、学校を卒業して今の会社に就職して、今のご主人と巡り会われたそうなのだが、結婚するにあたり、家の事情を相手に話して、結婚の費用は自分で貯めるしかないことを分かって貰ったそうであり、今のご主人もそれを理解して、それから3年間、二人で結婚資金を貯めてから結婚されたそうである。
 
さて、結婚する段になり、彼氏を連れて来て、両親に結婚話をしたところ、両親がとても喜び、父親が1通の貯金通帳を二人の前に出して来て、「結婚資金の足しにしてくれ」と言ったらしい。
貧乏生活で、貯金などする余裕は全く無いと分かっていたので、彼女はとても驚いたのだが、通帳を見ると、80数万円が貯金されていたとか。
「とても使えない」と固辞したのだが、通帳の中身を見ていた今のご主人の方が、今度は急に号泣し始めたとか。
彼女には泣き出した理由が分からず、聞いたところ、彼氏から、「通帳の中身を良く見てみろ」と言われたらしい。
そこで、1ページ目からずっと見ていったところ、何と、1回の貯金額が150円を超えるのは2回しかなく、あとは、数十円の貯金を、日々コツコツと貯められて来たのが分かる内容だったとのこと。
二人で、「どうしても使えないので、ご両親で使って下さい」と固辞したとろ、
 「それでは、いつか生まれてくる孫のために取っておこう」
と言うことになったそうである。
 
その後、父親が亡くなり、後を追うように母親も亡くなったそうであるが、
その貯金通帳について、ご主人が、
 「俺は、中身は要らないから、通帳だけ俺にくれ」
と言われたそうである。
 「我が家の家宝にし、生まれてくる子供達に、『こんな立派なお爺ちゃんとお婆ちゃんの血が、お前達には流れているんだ』と話をしてやる。」
と言われたそうである。
 
■心の豊かさ (2)
 
結婚を目前にしたカップルがいたそうなのだが、男性の方が亡くなってしまったらしい。
悲しみに明け暮れた彼女だったが、生前に、二人で旅行したことを思い出し、その旅行先に行って、二人で歩いたところを辿っていたところ、二人で入った1軒のパチンコ屋が見つかったので、入って見たとのこと。
 
二人で座ったパチンコ台の前に座り、「隣に彼が座っていたのだなあ」と思うと、その時の事を色々と思い出して、彼女は、遂に泣き出してしまったらしい。
店員さんが近づいて来て、「どうしたのか」と尋ねるので、理由を伝えたところ、その店員さんは、
 「そういう事なら、好きなだけ座っていて下さい」
と言われたそうである。
 
その後1年が経ち、彼女は、また旅行先を訪ねたそうであるが、パチンコ屋さんの前には花輪が沢山飾っており、新装開店されていたとのこと。
中に入ってみると、様子はすっかり昔とは変わってしまっており、パチンコ台も新しいタイプに入れ替わってしまっていたらしい。
そして、二人が座っていた場所に行ってみたところ、何と、その席だけ昔のまま変わらずに残っていたとのこと。
そして、その翌年もまた行ってみると、店は新装開店しているのに、その席だけ昔のままだったそうである。
 
林さん曰く、「彼女のために、その場所だけ昔のまま残す様に進言した店員さんの人間性も素晴らしいが、それを認めたオーナーの人間性もまた素晴らしい」と。
 
■支え合う心
 
2002年、サッカーのワールドカップが、日本と韓国で開催されたが、その時に、和歌山市で合宿されていたデンマークチームのお話である。
 
「宿舎を提供してくれたお礼に何でもしますから、言ってください」とチームから言われた和歌山市側は、市内の子供達のために、握手会やサイン会をお願いしたとのこと。
そのサイン会での出来事なのだが、
キャプテンのところにサインを求めに来た子供を見て、障害で喋ることが出来ない子供だと分かり、キャプテンは、手話で話を始めたらしい。
しかしながら、日本とデンマークでは手話が違うらしく、通じなかったため、今度は、「時間が掛かってもいいから」と言って、筆談で会話を始めたとのこと。
 
そして、子供からの質問があり、「あなたは、何故、手話が出来るのか」と聞かれたそうである。
そこでキャプテンは、
 「実は、自分の姉にも障害があって、手話を覚えたのだ。」
と答えたそうであるが、さらに子供に対して、
 「君は、自分に障害があって喋れないことで苦しんでいるかもしれないが、そのことで苦しんでいるのは君だけじゃないんだ、君のご両親や兄弟も、同じ様に苦しんでいるんだよ。そうやって、人間はお互いを思いやり、お互いに感謝し合って生きているんだよ。」
と言われたそうである。
最後に、「今度の試合では、君のために必ず1点取る」と約束して別れたそうであるが、次の試合では、見事にゴールをゲットしたんだとか。
 
その後、デンマークチームは、決勝トーナメントで敗れてしまったのだが、キャプテンから、その時の子供に対して、「応援してくれたのに、優勝できなくて申し訳ない」と言う手紙が届いたとのこと。
 
■感謝の心
 
佐賀の看護学校に講演に行って、副校長の女性と話をした時に、「私は一生涯、大分県警には感謝し続けるだろう」と言う話を聞いたそうである。
 
ある年のゴールデンウィークの時に、彼女は、ご主人と二人で、佐賀から大分県の佐伯まで車で向かっていたそうであるが、それは、1日に1便しか無い佐伯から四国へのフェリーに乗るためだったそうである。
出航時刻は、夜の10時半だったそうであるが、道に不慣れなこともあって、間に合うかどうか分からず、大分市まで来たところで、やむなく、警察に行って相談したとのこと。
 
警察側は、最初は連休中の旅行者だと思ったらしいのだが、急いでいる理由を説明したところ、パトカーを出して先導してくれることになったそうである。
理由と言うのは、その時、四国でサーフィンの大会が開催されており、ご夫婦の娘さんが出場していたのだが、転倒した時に、波の影響でサーフボードが頭部に当たり、重態と言う知らせを受けて、現地に駆け付けている途中だったそうである。
 
そして、佐伯市の手前まで来ることができ、そこからは管轄外と言うことで、パトカーの先導はそこまでだったのだが、その先が、実はまだ道が分かりづらく困っていたところ、止まっていた車から人が降りて来て、
 「ここから先は、我々が先導します」
と言われたそうである。連絡を受けた佐伯署の警察の方が待っていたのである。
 
そして無事、佐伯港に着くことが出来たのだが、時、既に遅く、11時を回っていたそうである。
ところが、出航してしまった筈のフェリーが待っていて、無事、フェリーに乗船して四国に向かう事が出来たそうである。
フェリーの船長さんも、大分県警から連絡を受けて、到着を待つと腹を決めたそうである。
結局、娘さんは亡くなられたそうであるが、ご夫婦は、この時の恩を忘れることが出来ず、大分県警には一生感謝し続けているそうである。
 
■初詣
 
 「人はみな、お正月を迎えると初詣をし、今年一年の願いを祈願するが、じゃあ、大晦日に、一年間有り難うございましたと、お礼参りをする人がどれだけいるでしょうか」
と林さんは言われていた。
 「感謝する気持ちが、心を豊かにするのだ」
と、林さんは言われていた。
 「例えば、毎朝、会社の門の前で、守衛さんが『お早うございます』と声を掛けているが、感謝の気持ちで これに言葉を返してしますか」と。
 「もし、そうしていないなら、明日からでも、感謝の気持ちで言葉を返してください。相手に感謝すれば、感謝できる自分の心も豊かになる」
と林さんは言われていた。
 
やはり、人間、思いやりと感謝の気持ちが大事である。