追憶(7) 富士山


追憶(7) 富士山
2012年7月21日(土) くもり
更新:2023年10月17日(火)
 
小学校は、今日から夏休みに入るところが多いと思うが、お天気の方は、梅雨が明けたと言うのに、朝から今にも雨が落ちて来そうな、どんよりとした空模様である。
 
さて、本日は富士山についての思い出を語ってみる。
 
福岡生まれの私が、初めて実物の富士山を見たのは、いつだったかはっきりと憶えていない。
初めて、関西から東に足を踏み入れたのは、高校の修学旅行であるが、福岡~関西~美濃~信州~甲府~東京というルートで東京に入ったので、富士山を見る機会は東京からの復路になる。
復路は、新幹線で東京~関西間を移動したが、夕方から夜に掛けての時間帯だったので、富士山は見ていないと思う。
そうなると、富士山を見る初めての機会は、大学4年の時の就職試験(東京)の復路を、博多まで開通した新幹線で帰った時かもしれない。晴れて富士山が見えていればの話ではあるが。
 
富士山を間近で初めて見たのは、山中湖の湖畔である。
就職して2年目(1978年)の秋、当時は、会社のテニス部に入っていたが、春と秋には山中湖で合宿をしていたので、恐らく、その時が富士山を間近で見た最初だと思う。
因みに、会社のテニス部合宿は、「合宿」とは言っても、大会出場を目指す様な厳しい合宿ではなく、昼間はテニスを楽しみ、夜は酒宴を楽しむと言う合宿である(笑)。
 
1983年の夏、川崎から沼津(静岡県)にある工場に転勤してからは、毎日の様に富士山が視界に入る生活が始まった。
工場は、富士山の手前にある愛鷹山(あしたかやま)の麓だったので、毎朝、沼津市街からバスで通勤する時には、雲が掛かってなければ、富士山の山頂部分が愛鷹山の稜線から顔を出していたものである。
 
そして、初めて富士山に登ったのが、1986年5月1日である。
但し、登ったとは言っても、登山をした訳ではなくて、車で中腹(五合目)まで登ったのである。
ちょうど、福岡から沼津に出て来ていた母、叔母と箱根・伊豆旅行をする事になっていたのだが、初日に、車で富士山の五合目(富士宮口)まで登ったのである。
私自身も感激したが、叔母が「まさか、生きているうちに富士山に登れるとは、思ってもみなかった」と言って、とても喜んだのを憶えている。
 
当時、職場が沼津と言うことで、職場内には、毎年、富士山に登ると言う人も珍しくなく、そういう環境の中にあって、私も、一度は富士登山に挑戦して見ようかと言う気持ちが、芽生えつつあった。
そして、1993年8月13日、遂に富士登山に挑戦。
登山靴にスキーウェアの上着を着込み、酸素缶を携帯して、午後に三島の自宅を車で出発。
富士宮口の五合目に車を置いて、1時間ほどは五合目の休憩所で高山の空気に身体を慣らした。
 
やがて、空が暗くなって来たので、五合目を出発。富士登山の開始である。
6合目までは、苦もなく進んだのであるが、その先からは段々と疲れが出始め、空気が薄いせいか、吐き気もし始める。
そうなると、他の登山者のペースには全然着いて行けず、10メートル進んでは休み、また10メートル進んでは休むという繰り返しになってきた。
 
周りに沢山いた登山者の姿も、段々と少なくなるし、雨と風が吹き荒れ始めるし、やがては、真っ暗な吹き曝しの荒野に一人取り残された恰好になり、孤独との戦いである。
 
途中で食べたお握りは、全部吐いてしまうし、腹の調子が悪くなって、やむなく道を外れて用を足す始末になるしで、本当に、途中で断念して下山しようかと何度思ったか知れない。
それでも、7合目の山小屋の前まで到達すると、沢山の登山者が休憩していたので、ちょっと気分が楽になり、そこで休息を取る。
 
小屋の前に横たえてあったプロパンガスボンベに、腰を降ろしてウトウトしていると、山小屋の主が中から出て来て、何と、足で私を蹴飛ばして、「ボンベに座るな」と言って来た。
予約してない者には、本当に冷たいものである。
仕方がないので、再び登り始め、ようやく8合目に到達。時間は、はっきり憶えていないが、深夜の3時頃である。
 
この時には、雨と風の勢いが半端じゃなく激しくなっており、まさに嵐であった。
暫く座り込んで、どうすべきか悩んでいると、上から下山して来る人の数が徐々に増え始め、皆、口々に、「この嵐じゃ先に進むのは無理だ」と言っているのが耳に入ってきた。
途中でギブアップするのは、本当に情けなかったが、大勢の判断がそうであるなら、意地を張るのは止めようと自分に言い聞かせて、私も下山することにした。
 
あれだけ苦しんで登って来たのに、下山する時の足取りが、何と軽やかなことか。跳ぶように降りて来て、1時間程度で五合目に到着した様に思う。
朝の早い時間に、自宅に戻って来たので、カミサンがビックリしていたのを思い出す。
 
そうなるとリベンジである。
翌年の8月4日、会社で仕事をしていた私は、ちょっと手が空いたので、急に思い立ち、午後半休を取って自宅に戻り、準備して、再び富士山五合目に向かった。
 
前年の苦い経験を思い出し、この年は、明るいうちから早めに登山を開始した。
途中で食事を取るのも控えて、代わりに、チョコレートで栄養補給することにした。
それでも、疲れで先に進めなくなるのは前年と同じであり、10メートル進んでは休むというペースが、相変わらず続く。
ただし、前年とは違い、雨と風が無いので、幾らか気分は良い。
 
とは言え、結局は疲労の為に段々と気力が萎えて来て、7合目の山小屋まで到達したところで、遂に登頂を断念。
山小屋で一眠りしてから、下山することにした。
 
予約はしていなかったが、中に入って主(あるじ)に打診したところ、「狭いが、詰めれば寝られる。但し、朝食は無いよ。」とのことで、入れてくれた。
料金が幾らだったかは忘れたが、素泊まりで1万円前後は払ったと思う。
寝床は、本当に気を付けて寝返りしないと、隣の人に当たると言う程の詰め込まれた状態である。
 
暫く眠っているうちに、周囲がザワつき始めたので眼を覚ます。どうやら、夜明けが近づいたらしい。
小屋の外に出てみると、稜線から朝日が昇るのを見ることが出来た。
スッキリと晴れた朝であり、一眠りした効果で、体力も回復していたので、「登れるだけ登ってから下山するか」と言う軽い気持ちになり、取りあえず登ることにした。
 
進んでは止まるというペースは、相変わらずであったが、段々と身体が慣れてきたのか、登ると言うよりは、『一歩一歩、足を先の地面に置く』という繰り返しが、無意識に続く様になり、9合目を過ぎると、頂上の鳥居が視界に入る様になって来た。
あとはもう、惰性の様に身体が動き、とうとう鳥居を潜って山頂に到達してしまった。
 
浅間(せんげん)大社奥宮(おくみや)にお参りしたあと、弁当を食べて、ついでにお鉢(はち)巡り(火口を一周すること)までしてから、下山して来た。満40歳の夏のことである。
 
先週、長男が、その富士登山に挑戦して、登頂に成功した様である。まあ若さと言うべきか。登山靴は、私が登頂した時に履いた靴である。
 
2年前から、年賀状の写真を富士山シリーズにすることにした。
静岡県から発信する年賀状なのだから、静岡ならではのテーマにしたかったのである。
1年目は、歌川広重の東海道五十三次にも出てくる薩った(さった)からの富士、2年目の今年は三国峠からの富士である。さて、来年の年賀状は何処からの富士にしたものか。
 
【2023/10/17追記】
 
富士山シリーズの年賀状、富士山の写真を追加した。
 
1 山中湖湖畔からの富士(1979.10.28撮影)
 
2 富士山五合目(吉田口)(1986.07.29撮影)
 
3 狩野川(かのがわ)からの富士(1986.09.28撮影)
 
4 富士山五合目(富士宮口)に降りて来た義父母(1987年夏)
 
5 自宅付近からの富士(1988年秋)
 
6 狩野川からの富士(1992年冬)<
 
7 7合目で拝む日の出(1994.08.05撮影)
 
8 9合目より山頂の鳥居が見える(1994.08.05撮影)
 
9 山頂にある浅間大社奥宮(1994.08.05撮影)
 
10 今は道の駅「富士吉田」に移設されている富士山レーダー(1994.08.05撮影)
 
11 富士山火口(1994.08.05撮影)
 
12 空中にできた富士山の影(1994.08.05撮影)
 
13 東京タワーからの富士(2005.11.19撮影)
 
14 富士吉田からの富士(2005.12.11撮影)
 
15 忍野八海からの富士(2005.12.11撮影)
 
16 三島駅ホームからの富士(2006.11.25撮影)
 
17 富士市(旧東海道)からの富士(2008.08.30撮影)
 
18 薩った峠からの富士(2010.11.27撮影)
 
19 東富士五湖道路・須走ICからの富士(2011.09.10撮影)
 
20 御殿場からの富士(2011.11.12撮影)
 
21 裾野市付近からの富士(2012.11.10撮影)
 
22 河口湖からの富士(2014.11.14撮影)
 
23 三国峠パノラマ台付近からの富士(2015.1.2撮影)
 
24 山中湖からの富士山
 
【年賀状に使った写真】
 
25 2011年(平成23年) 薩った峠(静岡県)
 
26 2012年(平成24年) パノラマ台(山梨県 三国峠付近)
 
27 2013年(平成25年) 裾野市深良(静岡県)
 
28 2014年(平成26年) 山中湖・花の都公園(山梨県)
 
29 2015年(平成27年) 河口湖(山梨県)
 
30 2016年(平成28年) 三島市見晴台(静岡県)
 
31 2017年(平成29年) ぐりんぱ(静岡県)