経済のお勉強:プライマリーバランス(PB)とドーマーの定理


経済のお勉強:プライマリーバランス(PB)とドーマーの定理
2015年1月13日(火) 晴れ
 
題名からして、難しい印象を受ける文字列である。
しかしながら、ここのところ、インターネット上での経済の記事に、良く出て来るキーワードなので、ちょっと頭の整理をしてみるとしよう。
 
■利益について
まずは、例え話を一つ。
 
大きな会社には、だいたい「経理部門」という部署がある。
そして経理部門は、(勿論、すべての経理部門がそうとは言わないが)、とにかく、コスト(経費)を極力削ろうと考える。
商品を作って売る部門(開発製造部門と営業部門)が、売上を如何に伸ばそうかと考える一方で、経理部門は如何に経費を削ろうか(無駄なコストを減らそうか)と考える。
 
当然と言えば当然である。
   [利益=(売上−原価)−経費]
であるから、
会社の利益を増やすには、売上を増やす経費を減らすか(または、その両方)しかないから。
 
経理部門は、(これも、勿論、すべての経理部門がそうとは言わないが)、売上を伸ばす方は管轄外だから、経費削減と言う観点から、利益拡大に貢献する。
「どれだけ経費カット出来たか」が、経理部門の評価となる。
 
しかしながら、幾ら経費を削減しようが、肝心の売上が落ちたのでは、利益拡大は出来ないし、経費削減が、売上維持・拡大の足を引っ張る様では本末転倒である。
 
例えば、「経費」は「売上高」の30%以内に抑える(売上高1億なら、経費は3千万まで)と言う方針を立てた会社があったとして、もし、この会社が、何らかの原因で売上が落ち続けたとすると、それに引きづられて、使える経費もジリジリと減ってくる。
 
そのまま売上拡大の施策を打たないでいると、やがて、会社は、経営が成り立たなくなり、倒産に追い込まれる。
 
故に、普通は、売上が落ち続けたならば、一時的に財務状況を悪化させてでも、売上拡大のための「攻め」に出る(借金をしてでも、投資を増やし販促策を打ったり新商品開発をしたりする)
 
つまり、何が言いたいかと言うと、
 「売上拡大」と「経費削減」は、それぞれ独立して考えるのではなく、両方のバランスを見ながら進めなければいけない
と言うこと、
必ずしも、
 短期(例えば、「年度」とか「半期」とか「四半期」とか)ではなく、中長期で考えなければならない
と言うことである。
 
参考:(売上−原価)のことを粗利(または粗利益)と言う。 また、上で言っている利益(=売上−原価−経費)のことを営業利益と言う。
 
■(上の「利益」の話を)政府の政策に当てはめると
上の話を、国に当てはめてみる。
 
「売上」に相当するのはGDP(国民総生産)
「経費」のうち、国が使う部分の経費が国家予算である。
国家予算として入って来る金(≒税収)が、歳入
実際に使って出て行く金が<歳出と呼ばれる。
政府には、営業部門に相当するものは無いが、
開発製造部門に相当するのが、経済産業省、国土交通省、農林水産省あたりで、
経理部門に相当するのが、財務省
と言うことになろうかと思う。
 
そこで、「売上」と「経費」について、上の話に当てはめるなら、
●政府は、売上(=GDP)と経費(=歳出)をそれぞれ独立して考えるのではなく、両方のバランスを見ながら進めなければ行けない
と言うこと、
●必ずしも、短期(国の場合は「年度」)ではなく、中長期で考えなければならない
と言うことである。
 
にも関わらず、
現在の政府の財政政策は、
「売上(=GDP)」と「経費(=歳出)」のバランスを見ることはせず、「経費(=歳出)」目標だけを独立して達成しようと考えている。
 即ち、GDPがどういう状況にあるのかと言う事とは切り離して、毎年、歳入=歳出となる(予算内に収める。収支を赤字にしない)ことを目標においているのである。
▲但し、
 ここで言う「歳出」には、過去の国債の元利払い分は含めず、
 ここで言う「歳入」には、新規発行する公債分は含めない。
 つまり、政策に掛かる経費を税収等の収入の範囲内に収めておけば(即ち、新たな借金をしなければ)、
 ➪あとは過去分の国債発行残高(借金)に対する利払いをするだけであり、
  ➪「利払いの利率」と「GDP成長率」が同じであれば、
   ➪
(税収はGDPに比例して増減するので、GDP成長率=税収の成長率と考えて良いので)
    ➪利払い分は、GDP成長分(即ち税収増加分)で相殺されるので
     ➪借金の増加にはならない
と言う考え方をしているのである。
 
さらりと前提条件を言っているが、
実は、「「利払いの利率」と「GDP成長率」が同じならと言う前提条件が曲者なのである。
 
確かに、この前提条件が成り立つのなら、あとは歳入=歳出を守るだけで借金は増えないと言える。
しかし、現実はそんなに甘くない
➪現在はデフレである。
 ➪「デフレ期は、「GDP成長率」の方が「金利の利率」を下回る(「GDP成長率」<「金利の利率」)と言われているので、
  ➪歳入=歳出を守ったとしても、利払いの負担がのし掛かってきて、借金をせざるを得なくなるのである。
 
故に、売上(=GDP)の状況を考えること無しに、経費(=歳出)の目標だけを立てても駄目なのである。
 
こういう時は、上の民間企業のケースと同じ様に、借金をしてでも(国債を発行してでも)売上(=GDP)を拡大する政策を取るべきなのである。
 
■プライマリーバランス(PB)とは
上で出て来た歳入と歳出の収支のことをプライマリーバランスと呼んでいる。
 
現状の政府の目標は、プライマリーバランスを均衡させること(赤字にしないと)と設定している。
この目標に従って緊縮財政を進めている。
 
しかしながら、「歳出」と言うものは、役人が「お金を火で燃やす」ことでもなければ、「株式投資に使う(=金融経済に回す)」ものでもなく、国の各種施策を実施するために、民間に仕事を発注することであり、これはGDPの一部になるのである。
 ➪従って、歳出を減らすこと、即ち、緊縮財政(=政府の経費削減)を進めると言うことは、GDPを下げることに他ならない。
例えば、10兆円歳出を削れば、10兆円GDPが落ちる。つまり、インフレ対策(インフレ脱却のための対策)なのである。
このデフレ期で、政府もデフレ脱却を目標にしていると言うのに、どうしてデフレ対策とは真逆のインフレ対策をするのかサッパリ分からない
 
■ドーマーの定理とは
国債残高÷GDPと言う数値が、膨張し続けることなく一定の数値以下で推移していれば、たとえ財政赤字の状態であっても財政破綻することなく維持継続できるという内容。
 
「ドーマーの定理」に依れば、財政赤字であっても破綻することなく維持継続するためには、「国債残高÷GDP」を一定数値以下にし続けることであり、そのための方法は次の三つである。
  (a) 分子である国債残高を増やさない
  (b) 分母であるGDPを減らさない
  (c) (a)と(b)の合わせ技
 
現在の政府は、「(b)GDPを減らさない」を考えずに、「(a)国債残高を増やさない」だけを目標にしている。
 
具体的には、「利払いの利率とGDP成長率が同じなら」という(非現実的な)前提条件を当たり前の様に前提として「プライマリーバランスを均衡させる(新たな借金をしない)」ことを目標にしている。
しかしながら、デフレ期の今は、前提条件自体が怪しい状況であり、
「(b)GDPを減らさない」、または(c)=((a)国債残高を増やさない)+「(b)GDPを減らさない」で対処するしかないのである。
つまり、国債を発行してでも(借金してでも)需要を喚起してGDPを拡大させると言う手を打つしかないのである。
 
と私は思う。
 
■インフレ期とデフレ期
「インフレ期」なら需要>供給なので、
●国の買い物を少々節約しても、民間には生産(=供給)しなければならない需要が沢山あるので、活況を呈すことになり、GDPは増加する
 
ところが、今は、バリバリの「デフレ期」であり、需要<供給、即ち、モノ余り(在庫増加)の状態なので、
●民間の生産は低迷している。
 ➪結果的に、GDPは低下し、
  ➪GDPに比例する直接税(=所得税+法人税)の税収も低下する。
   ➪更に、GDPが下がれば、企業の儲けが減るから、従業員(国民)の賃金も下がるし、
    追い打ちを掛ける様に、昨年4月から消費税を8%に増税したために、
    ➪物価が上昇し、
     ➪賃金の単純な増減だけを見た名目賃金ではなく、物価上昇率を加味した実質の購買力を示す実質賃金で見ると
      賃金は低下を続けている
   ➪税収が減少すれば、更なる国の買い物の節約(緊縮財政)をせねばならず、これはもう、ドロ沼に落ちていく一本道になる。
 
デフレ期は民間(企業と国民)のお財布が冷え込んでいるのだから、消費は伸びない(需要は伸びない)。
 ➪であれば、国が需要を創り出すしかない
  つまり、財政出動(国の買い物を増やす)である。
  国が借金してでも(=国債を発行してでも)、買い物を増やさなければ駄目なのである。
 
勿論、買い物と言っても外国から買い物をするのは、外国のGDPを増やすだけであって、日本国のGDPには繋がらないので意味が無く、
民間から買い物をして、
 ➪民間にお金が回る様にし、
  ➪民間が、生産を増やす(GDPを増加させる)様にしなければならないのである。
 
企業が、お金を生産のための投資(実体経済への投資)ではなく、借金返済や株式投資(金融経済への投資)に回しても、GDPは増加しないのと同じく、
国が、借金返済(緊縮財政)しか考えなければ、GDPは増加しない
民間だって、稼ぎを増やすために、借金をしてでも生産のための投資をして、辛い時期を乗り切れば儲けが増えるのだから、
国だって、借金(国債発行)してでもGDPを増加させることを考えなければ駄目である。